身代わりペット
「病気で死んだんだ」

「えっ」

「叔母から譲り受けた猫でね。『ルイ』って言って、新雪みたいに真っ白でヤンチャで我が儘いっぱいの姫だったよ」

当時の事を思い出しているのか、課長の目尻は下がって本当に愛おしそうな顔をしている。

でもそれも一瞬で、次の瞬間には眉間にシワを寄せうつむき加減にため息を吐いた。

「ルイがいなくなって、最初はちょっと食欲がなくなる程度だったんだ。そしたら今度は夜なかなか寝付けなくなって、睡眠不足で体は重いし頭は働かないしなんにもやる気が出ないし。なにか悪い病気かと思ったよ。……まぁ、病気だったんだけど」

ハハッと乾いた笑い声が、なんにもないこの部屋にやけに響いた。

「どの病院で診てもらっても健康状態は良好。血液検査も引っかからなかったし、レントゲンも撮ってもらったけどどこにも異常はない。俺は困り果てたね。そしたらある医者にこう聞かれたんだ。『最近周りで変わった事はないか。仕事で大きく失敗したとか、誰か大事な人が亡くなったとか』って。俺はハッとしたよ。ルイがいなくなった、って……」

言葉の最後の方は、課長の声が震えている。

泣いているのかな?

私はそっと課長の肩に手を置こうとした。ら、課長が勢いよく立ち上がった為に私の手は弾かれてしまった。

「わっ!」

「でもそんな時!中条!君がいたんだっ!!」

課長は舞台さながら声を張り上げ、キラキラした目で私を見る。

「…………え?」

私は訳が分からず驚いた姿勢のまま固まった。

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