身代わりペット
まだ賑わっている繁華街を、人にぶつからない様に慎重に、かつ急いで駆け抜ける。

幸いな事に、課長のマンションと私のアパートの距離はさほど離れていない。

中学・高校と陸上部で短距離走者だった私の足なら10分もかからず到着する。

(見えた!)

アパートが視界に入り、胸が高鳴る。

(久し振りに和矢に会える!)

私の部屋は、2階道路側の角部屋だから、ここからなら明かりが点いているかが確認できた。

(……あれ?)

しかし、部屋の明かりは点いていなかった。

部屋に入って待っててと伝えたはずなのに、外で待っているのだろうか。

あと数十メートル、と言う所で握っていた携帯が鳴った。

キキッ!と足が止まる。

上がった息を整えながら確認すると『和矢さんからの新着メッセージ』の表示。

まさか……と思い、慌ててタップするとそこには、

『悪い!ダチから飲みの誘い入ったからそっち行くわ!ごめんな!』

と無機質な文字で書かれていた。

「…………」

その文字を見た瞬間、全身の力が抜けその場にしゃがみ込む。

いくら陸上部だったとは言え、流石にブランクがあり過ぎて足がガクガク言っていた。


これで何度目だろう。


なかなか会えなくてじれったい思いをしているのは、私だけなんだろうか。

それとも付き合って4年ともなると、こんなもんなの?

こんな息を切らせて、走ってまで会いたいと思っているのは私だけ?

「……帰ろ」

フラッと立ち上がり、トボトボと歩き出す。

誰にも見られてないんだから泣きたいなら泣けばいいのに、なんだか悔しくて、歯を食いしばって涙を飲み込んだ。
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