身代わりペット
「ふむ。ドタキャンとは酷い彼氏だな」

恥ずかしい。

あんなに息まいて出て行ったのに、結局ドタキャンなんてされた哀れな女。と思われたかも。

課長が、ヒョイっと空になったコップを私の手から取り、片付けてくれる。

「あ、申し訳ない。人の彼氏に対して失礼だったかな」

「あ、いえ、いいんです。あんなヤツ、そう言われても当然ですから。会いたい、とか、不安、とか、私ばっかり、で……」

あ、ヤバい。

自分で言ってて泣きそう。

涙を必死に堪えていると、急に目の前に「猫じゃらし」がにゅっと差し出された。

私はなんの事だか分からなくて、キョトンとしてしまう。

「あ、やっぱダメか?」

「……なんですか?」

「いや、元気がないみたいだから、猫じゃらしで遊ばないかな?と思って」

課長が恥ずかしそうに笑う。

「私、本物の猫じゃありませんよ」

「うん。分かってるんだけど……」

今度は苦笑いを浮かべる。

(なに?なんなの?……あ、もしかして?)

「慰めて、くれてるんですか?」

私は恐る恐る聞いてみた。

「え?う、う~ん。そう、かな?」

課長が照れながら頭をガシガシ掻いた。

「課長、それ慰めになってません」

「やっぱり?」

「はい」

なんて慰め方なんだろう。

こんな変な慰められ方は初めてだ。

でも、なんだろ。ちょっと元気になった。

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