身代わりペット
「これ、私の為に買ったんですか?」

だって、ルイちゃんに関するものは全て捨てたって言ってたよね?

「いや、え~と…まあ、うん」

「そうですか」

普通なら「変態!」とか思うのかもしれないけど、今の私にはそんな気持ちが一切なかった。

私も毒されてしまったのかな?

「あの、中条?」

「はい?」

ピンクの猫じゃらしを摘まんで遊んでいたら、課長が時計を指さした。

「帰るなら送って行くけど、どうする?」

もう深夜の2時だ。

さっきまでの私だったら這ってでも帰ろうとしたんだろうけど、だけど、なんだかこのまま帰りたくない。

「……お礼」

「え?」

「お礼に、ルイちゃんやります」

「え」

私の申し出に、課長が目を丸くしている。

「借りを作りたくないんで」

「ほ、本当に?」

「はい。あ、でも今日だけです。明日からはしませんよ」

そう言うと、課長が嬉しそうに首を縦に振った。

「じゃあ、どうぞ」

と言って頭を差し出したら、課長がいきなりベッドに潜り込んで来た。

「か、課長!?え?え!?」

頭を撫でられるだけかと思っていたから、私はパニックになった。

パニックになっている私なんてお構いなしに課長はゴロンと寝転がり、グイっと私の手を引いた。

「わ、わ!」

ズルズルズル、とベッドに引っ張り込まれ、すっぽりと抱きすくめられる形になる。

「か、課長!さすがにこれはっ!」

「ん?だって夜寝る時はいつも、ルイは俺の腕枕で眠っていたから」

「いやいや!ルイちゃんはそうだったかもしれませんが!」

「え?だって、中条は今『ルイ』なんだろ?さっきそう言ったじゃないか」

「い、言いましたけど……」

「じゃあ問題ないな」

そう言って、頭を優しく撫で始めた。

いやこれって、完全にアウトじゃない?

てか、心臓がヤバい。破裂する。

しかし課長はと言うと、ご機嫌に鼻歌を歌っている。

なんでこんな平気な顔してられるのだろう。

(あ、そうか……)

課長には下心なんて一切なくて、本当に私をルイちゃんだと思って接しているから。

(まあ、最初にそう言っていたけどさ。こっちはそうは行かないっての!)

あいかわらず、課長は私の頭を撫で続けている。

(あ~でも、眠くなって来た……)

撫でられる心地よさと酔いも手伝って、瞼を開けていられなくなって来た。

考えるのも面倒になって来たので、もう寝てしまおう。

「課長」

「ん?」

「ありがとうございました……」

「ああ。おやすみ」

「はい…おやすみ……なさい……」

私はそのまま眠りについた。

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