身代わりペット
私はおもむろにスマホを取り出し、メールを開く。

「紗月?」

「ちょっと待って……」

和矢のメッセージ欄を開いて、新規のメッセージを打った。


「……見て」

「え?」

千歳に画面を差し出す。

そこには『もう疲れた。別れて下さい。さようなら』と打った文字。

「これ、今から送るから」

そう言って、送信をタップする。

数秒後に、「メッセージ送信成功」の文字が画面に表示される。

「はい。これで一件落着!」

「紗月……」

「は~っ、スッキリした!さっ!お弁当食べよう!」

私は食べかけていたおにぎりを手に取る。

別に無理をしているつもりはない。

今日の天気と相まって、本当に清々しい気分だ。

でも、あれ?

なんだ?視界がゆらゆら揺れてる。

ポツ、ポツ、っと、雫が手に零れ落ちて来た。

雨?

不意に横から、スッとハンカチが差し出された。

「え?」

私は訳が分からずキョトンとする。

「涙。それ以上泣くとメイクが崩れるよ」

と言われて、初めて気が付いた。

雨の雫ではなく、私の涙だったんだ。

「そっか。私、泣いてるのか」

「気付いてなかったの?」

「うん、全然」

「ったく…アンタらしいわ」

千歳が呆れたように笑う。

ホラっ、と再度差し出されたハンカチを受け取り、涙を拭いた。

「ありがとう」

「ん」

それから会話はなく、お弁当を食べた。
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