身代わりペット
「あの、課長にお任せします」

「え?良いのか?」

「はい。私が決めちゃうと居酒屋とかになってしまうので」

女子力の欠片もなくて、言ってて恥ずかしいな。

「居酒屋?ああ、あの泥酔事件の?」

「う…はい……」

イヤな事を思い出させてくれるっ!

余計に恥ずかしくなっちゃったじゃないか!

「よし、そこに行こう」

「へ?」

「その居酒屋に行こう。確か、ここから近かったよな?」

「はい。あの信号を右に曲がってすぐです」

「じゃ、行こう」

「え、あ、ちょっ!」

課長が私の腕を引っ張って歩き出す。

「い、いいんですか?」

「ああ、構わないよ。こないだ迎えに行った時に焼き鳥がうまそうだったから食べてみたい」

確かにあのお店の焼き鳥はめっちゃ美味しい。

でも、課長が居酒屋でご飯を食べる姿なんて想像ができない。

もうちょっと上品なお店(全国の居酒屋さんごめんなさい)の方が良いんじゃないの?

そう言ったら、

「そんな事はないよ。学生の頃はよく居酒屋で飲み会とかもしたしね」

だって。

私は、課長がそれで良いのなら、と、後は何も言わずに黙って手を引かれながらお店の暖簾をくぐった。
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