身代わりペット
近付くにつれ、焦げ臭い臭いが強くなる。

「すみません!通して下さい!」

ごった返す野次馬を掻き分けて、アパートの前に抜け出た。

そこにはテレビでよく見る黄色いテープがアパートの周りに張られていて、中まで入る事は出来ない。

どうやら消火は済んだみたいで、消防隊が警察と何かを話したりしている。

よくよく見てみると、私の部屋の隣までが酷く燃えていて、ここから見た感じでは間一髪、私の部屋まで火が回っている様子はなかった。

「あっ!紗月ちゃん!」

名前を呼ばれ振り向くと、大家さんが手を振ってこちらに駆け寄って来た。

「大家さんっ!!」

差し出された大家さんの手を取り、ぎゅっと握った。

もう初夏とは言え夜はまだ少し冷える。

大家さんはトレーナーにジーンズと言う薄着。

長時間この格好で外にいたのか、手は冷え切っていて唇も少し青ざめている。

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