身代わりペット
「良かった!紗月ちゃんの携帯に連絡しても全然繋がらなかったから心配していたのよ!!」

「えっ・・・」

携帯?

でも、会社を出てから携帯は一度も鳴らなかったはず。

言われて確認してみると、いつの間にか電源が切れていた。

「あ・・・」

財布の角に電源のボタンが当たってしまっていたのかもしれない。

「ご、ごめんなさい。電源が切れてました!」

急いで電源を付けると、確かに大家さんから何度も電話が来ている。

「ううん、無事なら良いのよ!ホント、良かったわ~!!」

「あの、それはそうと、大家さん。これは一体…!?」

そう言いかけると、隣にいた消防隊のお兄さんにすかさず、「危険ですので中に入らないで下さい」と言われた。

「ごめんね、紗月ちゃん。結構燃え広がっちゃってるから倒壊の恐れがあるって言うのよ」

「そうなんですか。でもどうして……」

「ホント、参ったわよ~。そこのゴミ捨て場に放火ですって!」

大家さんが語気を荒くしながらアパート横にあるごみ捨て場を指さした。

「他の住人にも迷惑がかかっちゃうのにも~!まったく、嫌になっちゃう!住人の皆さんには今日はどこかに避難してもらわないと……」

大家さんが頬に手を当てて迷惑そうに顔をしかめた。

当然の事だろう。

(放火……怖いな)

通りからちょっと外れているここはかっこうの場所だったのだろうか。

辺りを見回してみると、住人ほとんどが携帯で誰かと連絡を取っている様だった。

多分、アパートに住めなくなったと連絡をしているのだろう。

そうだ。

私も今夜寝る場所を確保しなくては。

もう22時を過ぎたし、これから実家に帰ってもすぐに出社の時間だ。

それなら近くのホテルに泊まった方が効率がいい。

(う~ん。問題は着替えだよな……)

こんな時間ではスーパー位しか開いていない。

(スーパーに服売ってないしなぁ。あ、でも隅の方にちょっと売ってたか?)

ブツブツと呟きながら色々考えを巡らせていると、

「あら。彼氏の家に泊まったらいいじゃない?洋服の一着や二着、置いてあるでしょ?スーパーには紗月ちゃんが着るような服は売ってないわよ」

とさっきは怒っていた大家さんがニマニマしながら言って来た。
< 78 / 193 >

この作品をシェア

pagetop