身代わりペット
「どうした?」

振り向いた課長は黒縁のメガネをして、スーツではなくスウェットを着ていて、会社にいる時とは全然雰囲気が違った。

どうやら普段はコンタクトだったらしい。

「あの、お水を頂いてもいいですか?」

「ああ、構わないよ。冷蔵庫に入ってるからなんでも好きに飲んでくれ」

そう言いながらメガネを外して、目頭を押さえながらあくびをしている。

「ありがとうございます。…お仕事中ですか?」

課長の前にあるパソコンにはグラフの様な物や数字が映し出されている。

「ん?ああ、いや。これは仕事じゃないよ。趣味で株をやっているんだ」

「へえ、株ですか……株っ!?」

課長がサラッと言ったので、私もサラッと受け流してしまう所だったけど、株なんてやってるの!?

「ああ。学生の頃からやっていてね。これでも結構儲けが出ているんだ」

課長はいたずらっこのように、ニッと笑った。

「す、凄いんですね」

なるほど、謎が解けた。

以前、課長職がこんなに儲かるのか?って思った事も、このマンションも、今ので納得。

「あ、あのじゃあ、お水頂いて私も寝ますね。あ、あと、パジャマ勝手に着させてもらいました」

ダメって言われたらどうしよう、とちょっとビクビクしていたんだけど、

「ああ、構わないよ。あの部屋にある物は好きに使ってくれ」

特に怒っている風でもなかったので、私はホッと胸を撫で下ろした。

「ありがとうございます。じゃあ、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

課長はもう一度メガネをかけ直してパソコンに向き直る。

静かにドアを閉め、私はリビングに向かった。
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