身代わりペット
「課長っ!」

私はリビングの扉を勢いよく開け、ソファーでくつろぎながら優雅にコーヒーを飲んでいる課長に詰め寄った。

「どうした?」

「どうした?じゃないです!このシャツ、まだ色落ちするんで他の洗濯物と混ぜないで下さい、って何度も言いましたよね!?」

深緑色のチェックのシャツを、バッ!と課長の前に差し出す。

すると課長は悪びれもせずそのシャツをじーっと見つめ、

「ああ。忘れてた」

とだけ答えた。

そんな課長の態度に腹が立って、私はもう一度怒鳴った。

「忘れてた、じゃないですよ!白いワイシャツが緑色に染まってもいいんですか!?」

「それは困る」

「だったら今度からちゃんと色分けして下さい!」

「分かった分かった」

課長は怒られているのに、なぜかニヤニヤしている。

最近の課長は、ずっとこうだ。

最初の内は本当に申し訳なさそうに謝っていたのに、近頃は軽く「悪かった」と言って私の注意を受け流すようになった。

「もうっ!次やったら緑色に染めますからね!」

私はそう言ってリビングのドアを勢いよく閉め、ドカドカとランドリールームに戻り、持っている深緑のシャツを色柄物のカゴにバサッ!と無造作に放り込んだ。

「まったく、何回も注意してるのに!!」

ブツブツと文句を言いながら、乱暴に洗濯機のスタートのボタンを押した。

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