身代わりペット
課長の家にお世話になって早1か月。

一緒に居る事で、色んな課長が見えて来た。

洗濯物が苦手、と言うのは来た当初に宣言された事だから分かってたんだけど……。

「ここまで無頓着とはっ!」

ため息を吐きながら項垂れる。

どうやら課長は、『物を綺麗にする』と言う行動が苦手みたい。

だから掃除も下手だし、お皿洗いとかも苦手。

でも、この家に一番最初に入った時の感想は『キレイに片付いていて何もない部屋』だった。

課長が片付けが苦手と知り、疑問に思って「ルイちゃんがいた時はどうしてたんですか?」と聞いてみたら、「ハウスキーパーを週に2回程雇っていた」と教えてくれた。

「そりゃプロに頼んでいたら綺麗なハズだよ……」

それからルイちゃんが亡くなって、課長一人だけだしそんなに散らかる事もなくなったからハウスキーパーに依頼する事はなくなった、と言う事だった。

「料理も特に出来なかったのには驚いたな」

以前、和矢の事でベロンベロンに酔っぱらった私を介抱してくれた時に作ってくれた中華粥。

「あれすごく美味しかったから、課長は料理も出来るんだと思ってたよ」

でも、違ったんだな。

ルイちゃんが亡くなった寂しさを紛らわす為に、一人で行った中国。

そこで食べた中華粥がめちゃめちゃ美味しくて、自分で作れたらいつでも食べられる!と一念発起。

試行錯誤を繰り返し、作り上げた逸品だったそうだ。

つまり課長は、あの中華粥しか作れない。

「でもまあ、課長が料理出来なくても私が出来るから、結婚相手にそれは求めてないけどね。課長ぐらいの稼ぎがあれば、私は専業主婦になったって良いんだし…………あ」

はぁぁぁぁぁ~~!っとため息をついて洗濯機に手を付く。

「これ、何回やってるんだろう」

さっきみたいなやり取りをしていると、新婚夫婦みたいで勘違いをしそうになる。

「なに何回もこんな妄想して一人で落ち込んでんのよ……。でもさ、あんまり近くにいるからさ、勘違いだってしちゃうじゃん」

私がこんな勘違いをしちゃうのは、これだけが原因じゃなかった。
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