俺様室長は愛する人を閉じ込めたい~蜜愛同居~
(やめよう。今更過去を振り返っても仕方ない。あの人に会ってしまったのは変えられない。でも……昔の事なんてもう何年も思い出したことなどなかったのに。好きだったのは過去の話なのに……)

塔子は少し頭を振ると、商談の準備をするために事業部へと戻った。


サイエンスコーポレーションは大手のIT企業だ。
海外にも進出しており、社長の長谷川正幸を筆頭に、息子の誠が副社長。その他多くの役員、社員を抱えている。
日本にも福岡、大阪、名古屋、仙台と多く支社がある。

その本社の秘書課は、大阪にいた塔子にとってあまりにも無縁だった。


塔子が壁の時計に目を向けると、19時を少し過ぎた所だった。


(商談……意外に時間かかっちゃったな)
塔子は知らず知らずに大きなため息をついていた。

(さあ、早く片付けてしまおう)

「片桐さん」
不意にかけられた、後ろからの声に心臓が跳ね上がる。振り向かなくても誰の声かわかる自分に嫌気がした。

塔子はゆっくり気持ちを落ち着けると、声の方に振り向きその人を見据えた。

「はい。なんでしょう。千堂室長」

「社長が今日の商談が上手くいったお礼に食事でもとの事です」

(食事?この人もいくの?今はこの人と関わりたくない。でも……社長からの誘いを断れる?)
頭の中はグルグルといろいろな事が渦巻く。

「はい、ありがとうございます」
しかしそう微笑んで答えていた自分を、塔子は呪った。
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