さよなら流れ星




語尾に向かうにつれて小さくなっていくひなたの声。
見なくてもわかる。

きっと、今のひなたの顔は僕と同じで、熟れたりんごみたいに真っ赤なんだろう。


「あ、あのさ、それって──」
『そんなことより、流星って本好きなんだね!あたしも好きなんだ!』


僕の言葉を遮って今までになく大きな声をあげるひなた。
そのことに落胆しながらも少しだけホッとして、ゆっくりと口を開く。


「好きだよ。吾妻 圭太郎とか、道草 秀雄とかよく読む。」
『へえー!意外と趣味合うかも。』
「ほんと?お互いに渋いのが好きなんだね。」


ああ、でも、と。手元にある文庫本の背表紙を撫でながら続ける。


「朝霧アキラが一番好きかな。」
『朝霧アキラ?知らないなあ。』
「まあ、そこまで有名な作家さんじゃないからね。でもすごく面白いから、良かったら調べてみて。」


──さよなら流れ星。

ぼんやりとその表紙を見つめる。

真っ暗なキャンバスの中を泳ぐ星たち。
それらはみんな尾を引いてきらめいている。
その壮観な眺めを見ながら手をつないでいる男女。
流れ星に願いを叶える力があるのならば、彼と彼女は一体なにを願うのだろうか。


「…本は、いいよね。」


ぽつり、と不意にその言葉はこぼれる。
おもむろに表紙を開いて、ぱらぱらとページをめくった。




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