さよなら流れ星
…帰ろう。
そう決意して重い腰を上げる。
外にいてもなにも変わらないし、さっきから髪が汗で肌に張り付いて鬱陶しい。
星空から逃げるように立ち上がってスマホを拾い上げる。
幸いスマホの画面は割れていない。
安堵して、足元の小石を蹴りながら歩き始めた。
_____そのとき、手の中のスマホが震え始めた。
…誰だろう、こんな時間にあたしに電話してくるような人はいないはずなんだけど。
首を傾げながら画面を覗き込むと、そこには【非通知】の文字。
非通知。それなら出る必要もないだろう。
いつも通り無視しようとして再び歩き始める。
けれど、手の中にあるスマホの震えは止まらないまま。
じっと、【非通知】の文字を見つめる。
どうせ間違いかイタズラだ。
そんなことはわかっていたけど、あたしの心にちょっとした好奇心が芽生えた。
いつもだったら知らない番号からの電話なんて無視するのに。
晴れなかった心のモヤモヤが無くなるかもしれない、なんて期待したわけじゃないけど。
星がいつもより綺麗だったから。
いつもより心がぐちゃぐちゃだったから。
理由なんてわからないけど、「いつも」と違うことをやってみよう、なんて。そんなことを思ったのか知らないけど、気づいたらあたしの指は、ボタンを押していた。
「…はい、もしもし。」
耳にスマホをくっつける。緊張して、声がつっかかった。
そもそもあたし、電話ってあんまり好きじゃない。人の表情を見て話したいタイプ。
前歯を舌でなぞりながら返事を待つ。聞こえてくるのはひどいノイズばかり。
そのまましばらくそれを聞いていたけれど、一向に声らしき声は聞こえてこない。
スッと自分の心が冷めていくのがわかる。
「いつも」と違う何かを期待したあたしがバカだった。こんなことで、何かが変わるわけないのに。
ぎゅっとスマホを握りしめて、電話を切ろうとした、そのとき。
『…もしもし?』
相変わらずノイズ混じりではあったけど。
たしかに電話の向こうから、男の声が聞こえてきた。