さよなら流れ星
その言葉の意味を理解しようとして、頭の中で反芻する。
『ハチ公は、20年前に無くなった』───
「…はあ?」
何度考えても意味がわからなくて、乾いた笑いを浮かべた。
「…もう、いいよ。つまらない冗談ばっか言って、本当はあたしになんて会いたくないんでしょ…?」
あたしばっかり、ばかみたいだ。
情けなくて、みじめで、鼻がツン、としみる。それでもどこか希望を捨てきれず、流星の言葉を待った。
『ひなたこそ、なんの冗談なの…?僕だって、きみにすごく…すごく、会いたいのに』
少し恥ずかしそうに、それでもたしかに、流星は言葉を紡いだ。
その声は、とても嘘を言っているようには聞こえなくて。
頭がぐるぐると回る、目眩みたいな感覚。
「…流星、今って、2019年、だよね?」
ばかげてる、こんなの。
小説の読みすぎだ。それか、熱中症で頭が回らなくなっちゃってるんだ。
『…なに、いってるの?今は…2170年だよ?』
つまらない冗談ね、と。
気づいたらそう吐き捨てて、電話を切っていた。
2170年?馬鹿みたい。そんなの、今より150年も先じゃない。
冗談をつくにしてももう少しまともなのがあるだろうに。
もはや、笑いすらこぼれなかった。
目の前がぐるぐるして、チカチカして。心臓の音がうるさい。
ああ、本格的に熱中症になっちゃったかな。
はやく家に帰らないと。
ふらふらと、ブロック塀に寄りかかりながら、私は歩き始めた。