さよなら流れ星
当たり前のように、風が吹き、太陽が眩しく、星のきらめきを感じることができた時代。
もし、そこに彼女がいるなら。
もし、こんなクソみたいな時代に生きていないというのなら。
それはきっと、彼女にとっても、僕にとっても、幸せなことなんだろう。
そんな小説みたいな話、あるわけないけどね。
隣の本を手に取る。
裏表紙を開くと、2156年、ちょうど、人間たちが地下で生活するようになってすぐに刊行された本だ。
僕が生まれるほんの数年前。
世界中を巻き込む大規模な戦争が起こった。
日本が戦火の渦に焼かれることこそなかったけれど、各国が自国の技術力を費やして開発した様々な兵器は、地球を破壊し尽くした。
緑は焼かれ、空気は汚染され。
人間は、地上に住まうことが不可能になった。
一部の金持ちは火星に逃げたって噂もあるけど、一般人の父と母は、その他大勢の一般人とともに地下へと潜った。
地下だって安全なわけじゃない。
太陽ってのは生物にとって、必要不可欠なもの、らしい。
太陽があった時代は、風邪で死ぬことはなかった。
嘘みたいな話だ。
僕があと10年生まれるのが早ければ、お母さんは僕を地上で産めたんだ。
太陽のパワーで、出産に耐えられずに衰弱して死ぬこともなかったかもしれない。
まあ、その頃にはお父さんとお母さんは出会ってすらいないかもしれないけど。