さよなら流れ星
「…あ…もしもし。どなたでしょうか。」
驚いた。あと一秒遅かったら本当に切っているところだった。
なんで電話に出てすぐに声を出さなかったんだろう、と疑問に思ったけれど、ノイズからして電波が悪いみたいだし、聞こえなかっただけかもしれない。
『…えーっと…なんていえばいいんだろ…』
名前を聞いただけなのに、ずいぶんと渋る。
やっぱりただの間違い電話なのかもしれない。それで、電話の声が思っていた相手と違っていて向こうも驚いてる、とか。
『…笑わないで聞いてくれますか?』
「…え…はあ。」
笑うもなにも、人間間違い電話の一度や二度はしたことあるだろうに。
もったいぶるなあ、なんて思いながら次の言葉を待っていると、電話の向こうで彼が息を吸いこんだのがわかった。
『実は僕…なんとなく、誰かと話したくて。それで、適当な番号を押して…電話をかけてみたんです。
…それがまさか、繋がるとは思ってなくて…』
…予想外の返答が返ってきて、あたしはなにも言えずにフリーズした。
じゃあつまり、この人は…イタズラでも間違いでもなく、本当に気まぐれに、偶然、あたしに電話をかけてきたってこと?
「…ぷっ…」
なにそれ。わけがわからない。
「…ふふっ…ふふふ…」
『あ、あの…』
「いや、ごめんごめん。あなた、面白いね。」
顔も見ていないけれど、電話の向こうの彼が困惑しているのがわかる。
でも、笑うのも仕方ない。
普通「ただ誰かと話したいから」って理由で見ず知らずの人間にいきなり電話したりする?
もしかしたら嘘を言ってるのかもしれないけど、彼の優しげな声と話し方に、疑う間も無く信じて笑ってしまっていた。