特別な君のために
「え?」

いきなりそう言われて、新手のナンパかとびっくりした。

「ま、いいからこっちに来て」

「えええっ!?」

背中を軽く押されて、連れて行かれたのは講義室。
うちの高校では唯一の階段教室で、そこに普段設置されている机と椅子はなくなっていた。

その代わり。

「さすが奏多(かなた)先輩!」
「すごーい、もう連れてきたんですか!」
「何て言って騙したの?」

ジャージ姿の先輩達が、ざっと見ただけで30人以上立っていた。

「んー、騙した、とはちょっと違うな。カラオケ好きかどうか聞いて、放課後一緒に歌おうって誘って連れてきた」

「奏多! それまさに騙して連れて来てるから!」
「あー、ごめんね、訳がわかんないよね?」
「でも、せっかく来てくれたんだし、とりあえず練習見ていかない?」

さっき私を騙して連れてきた「奏多先輩」が、私の背後で教室のドアを閉めた。

帰り道を塞がれた私はそのまま練習を見て、心をわしづかみにされてしまった。


「奏多先輩」指揮によるゴスペルに―――。

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