特別な君のために
「どんだけ飴食べてるの……」
なるみの膝の上のポリ袋に、空になった飴の袋がたくさん詰め込まれていた。
全部のど飴というところが、合唱部員らしいけれど。
「だって、耳、痛くなるんだもん。着陸してからも耳が詰まったような感じがして、聴こえにくくなったら歌う時に困るでしょ?」
「そりゃ、困るけど、そんなにガリガリしなくてもいいんじゃない?」
「……だって、怖いんだもん。飛行機って」
そう聞いて、思わず噴き出した。
「あ~、美冬に笑われた!」
ぽかぽかと叩かれた。
「ごめんごめん。私も怖くて窓の外が見られなくて。でも窓側じゃないと酔っちゃうから困ってさ。それでなるみと話して気を紛らわせようとしたの」
「……それ、ホント?」
「うん。実は今、手汗が凄いことになってるの」
べたべたして気持ち悪いほどだったので、ショルダーバッグの中からウエットティッシュを出して拭いた。
「私にも一枚ちょうだい」
こうして二人で飛行機の不安を愚痴るところから、会話がスタートした。