特別な君のために
「マジ怖い」
なるみは私以上に怖がっている。私も怖いけれど、何とか励まさなくては。
「今落ちたら海の上だよ。運が良ければ助かるって」
「落ちること前提で話さないでよ! 余計に怖いじゃん!」
「それもそうだね。でも、泳げたら何とかなりそうじゃない?」
「逃げられたらいいけれど、閉じ込められたらどうすんの!? だいたい何で鉄の塊が飛んでるの?」
……それ、さっき私も思ったよ、とは言わずに。
「わかんないけどライト兄弟の時代から飛んでるんだし、歴史と伝統ある乗り物だから多分大丈夫」
……歴史と伝統という言葉を飛行機に使うべきか否かは置いといて。
その時、機体が少し上下して、機内にミシミシ、という音が響いた。
この、揺れた時に聞こえるミシミシっていう音は苦手だ。多分羽が揺れた音だったりするのだろうけれど、今にも空中分解するんじゃないかと恐ろしくなるから。
でも、と話しかけたなるみも、真っ青になっている。
「うおお、今揺れた! 下がった! ビビった!」
焦りながらも、きっちり韻を踏んでいるところが笑える。
「ここまで来たら、パイロットに命預けるしかないんだって」
みんなが寝ている中、私達だけがやたらとハイテンションに見えたらしく、五十嵐先生に睨まれてしまった。