特別な君のために
ヘッドフォンから流れてくる音楽が、課題曲からゴスペルに変わった。
さっきまで沈んでいた気持ちが、ようやく浮上してくる。
目に浮かぶのは、自身もノリノリで手を叩きながら私たちを指揮する奏多先輩。
自分のやりたいことを見つけられて、やっと自信を取り戻した私にとって、奏多先輩との出会いは奇跡だと思った。
過去の私を知らない仲間達。
私の悩みを知らない友達。
でもそれは、無関心なのではなく、深入りしないだけ。
もし私が相談したら、きっと親身になって考えてくれたと思う。
それでも私からは何も行動を起こさない。
今のこの環境を、どうしても壊したくないから。
たとえ妹であっても、私のテリトリーを侵害してくることは嫌。
ううん、あの妹だからこそ、絶対に嫌だと思ってしまう自分も嫌。
自宅が近づくにつれ、また暗い気持ちが蘇ってくることに気づいて、大きなため息をついた。