特別な君のために
ピアノのイントロが流れ、五十嵐先生の指先に視線を集中させる。
どうしても目に入るのは、たくさんのお客さん……ではなく、座席を埋め尽くす他校の生徒。
色々なプレッシャーの中、私達は歌う。
笑って、楽しんで、いい歌を届けよう。
ソプラノのメロディが会場いっぱいに広がって、アルトとテナーとバリトンがしっかり支えてくれる。
一年生の時とはまた違った、深みのあるハーモニーが響いているのを感じて、また笑顔になる。
課題曲、自由曲、それぞれの良いところをしっかりと出せたと思う。
みんな、今までの中で、一番いい声が出ている。
最高の響きが、ようやく本番のステージで出せたのかも知れない。
今までの努力がここで開花できたという奇跡に感謝しなくては。
もっと歌っていたい。
この曲が終わったら、私達の部活が、高校生活が、みんな終わってしまう。
最後のフォルティシモに心を込めて。願いをこめて。
最後のピアノの音が余韻となって会場に漂うのを、とても寂しく感じながら聴いた。
私達の歌が、終わった。
……ステージから降りて、放心状態のまま楽屋からロビーへ移動する。
心の中ではまだ、拍手が鳴り響いていた。