特別な君のために

「あ、ありがとうございます」

腕を掴まれたまま、私はとりあえずお礼を言った。

まだ、離してくれない。

顔から湯気が出そう。


「悪い。こうでもしないと子どもにケガさせるところだったから」

「すみません。今度から気を付けます」


ようやく離してもらったけれど、今度は手を差し出された。

「私、子どもじゃないですよ?」

「もちろん、知ってる」

「それなのに?」

「そう。それなのに、子どもに体当たりしそうになるから」

「うう、恥ずかしい」

「大丈夫、美冬にとってここは治外法権だから……誰かに見られて冷やかされることもない」

「でも、奏多先輩は、いいんですか?」

誤解されて困ってしまうような相手はいないのだろうか。

「俺のことはどうでもいいから。さ、行こう」


半ば強引に手を繋がれて、奏多先輩のサークルの模擬店前へと連れて行かれることになった。

途中、奏多先輩に声をかけてくる友達らしき人からの、意味深な視線が気になって仕方がなかったけれど、そこは何とか我慢できた。


だけど、その後にひと騒動持ち上がるなんて。

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