特別な君のために
いつものように二重ロックになっている玄関のカギを開け、直後にまた鍵を閉める。

「ただいま」を言うより先に、我が家では二重の鍵を閉めなくてはならない。

千春が勝手に抜け出さないようにするため。
千春の安全を守るため。

我が家は全て、千春が中心だった。

私も今更千春に嫉妬するような歳ではないし、お母さんが大変なのもわかっている。

だけど、時々思う。

『千春が普通の子だったら……』って。


千春は今のまま、見た目は年相応の可愛い女子高生、中身は幼稚園年中さん位という状態で生きていくだろう。

自分の靴を揃えていると、千春のスニーカーも目に入る。

中敷には可愛いイラストや矢印と一緒に、「みぎ」「ひだり」という文字が書き込まれていた。
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