特別な君のために

「ごめん、いきなりそんなこと突っ込まれて、困ったよね。じゃあ、これだけ聞いておいて」

そう言うと、目黒さんと名乗った綺麗なお姉さんは、椅子から立ち上がって私の耳元で囁いた。


「奏多のお母さん、心の病なの。奏多はそれでかなり大変な思いをしたんだって。殺されかけたこともあるって聞いたわ」

……確か以前、親が重い病気で、入退院を繰り返しているって言っていたけれど、それがお母さんのことだとしたら、このお姉さんの話は信ぴょう性がある。

「だから、奏多と付き合うっていうことは、お母さんの問題も一緒に抱え込むことになるの。そこらへん、大丈夫かなって思って」


何だか、悲しくなった。

奏多先輩は奏多先輩だし、お母さんとは別の人間だ。

たとえお母さんが病気でも、奏多先輩は違う。

『お母さんの問題も一緒に抱え込む』という表現の仕方に、かすかな悪意を感じてしまうのは、私自身も障がい者の姉、だからだろうか。

だとしたら、このお姉さんに伝えなくては。

私も抱え込んでいるのだということを。

だけどそれは決して、不幸なことではないということも。



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