特別な君のために
座ったまま目線を手元のメニューに向けて、私も小さな声で話し始める。
「ご忠告、ありがとうございます。実は私も『抱え込んでいる』身なので、奏多先輩にはいつも相談に乗ってもらっています」
そこまで話すと、お姉さんはびっくりした顔をして、私を見つめてきた。
多分、ただのおとなしい女子高生だと思ったのだろう。
こう見えても、私だって数々の修羅場を潜り抜けてきたのだから。
私も目をそらさずに、ゆっくりと告げる。
「私の妹は、知的障がいを併せ持つ自閉スペクトラム障がいです。パニックになった妹に、心と身体をやられた時、支えになってくれたのが奏多先輩でした。この爪も、そのときにやられた跡です」
小さくていびつな形をした右手中指の爪を見せたら、お姉さんは煌めいている自分の爪をそっと隠した。
「だけど、妹は私にとって、大事な存在です。奏多先輩にとってのお母さんだって、絶対に大切な人なんです。だから、厄介事を『抱え込む』わけではなく、守ってあげたい存在を『包み込める』人になりたいんです。私はそのために、この大学で勉強したいなって思っています」