特別な君のために
「奏多先輩そのもの、ですか?」
「そう。俺のこと、うちの母親のことは置いといて」
奏多先輩のことは、もうかなり前から。
「……好き、です」
「え? もう一回」
「ああもう恥ずかしいから言いません」
「そっか、残念。もうちょっと聞きたかったな。でも、そのうちまた聞かせてもらおう」
ところで、奏多先輩は私のことをどう思っているのだろう。
ここまで来てくれるくらいだから、きっと嫌われてはいない。
よし、さっきのお返し。
「先輩は、私のこと、どう思ってますか?」
少し、間があった。それから真顔で
「前に『いとおしい』の話をしたよな。あの頃はまさかこんな風に感じるとは思わなかったけれど、今の気分にぴったりなのは、その言葉かな」
「まさか、厭わしいの方、だったりしませんか」
「わかってるだろ! もうひとつの方だよ! 照れくさいからあんまり言わせんな!」
ベッドの上に、背中合わせで座って、ちょっと変わった告白をした。
明日、入試だっていうのに、頭の中が沸騰している。
どうしよう、覚えたはずの公式や年表が、ぽろぽろとこぼれていくんじゃないだろうか。
奏多先輩の大きな手が、私の頭をゆっくりと撫でて、こぼれ落ちそうな知識をもう一度戻してくれた。
そして、最後に優しく告げられた。
「大学生になったら、付き合おう」と。