特別な君のために
こうして歌って、指揮をしている間は、全ての嫌なことから解放される。
何とか新入生を招き入れたいという気迫のこもった歌を、力いっぱい歌う。
彼女の眼が輝きだした。これはもしかしたら、成功かも知れない。
演奏が終わり、彼女のところへ感想を聞きに行ってみた。
「どうだった?」
「……すごいです。何か、高校生の合唱って、カッコいいですね!」
「そう感じてもらえたら、嬉しいよ。それに、実際に歌うともっと楽しいから」
「えっと、先輩も楽しそうでしたよね!」
「あ、俺は新山奏多。君は?」
「浪岡美冬です。よろしくお願いします」
「……よろしくお願いしますってことは、もう、入部する決心固まったの!?」
「あ……はい」
はにかんだように笑うしぐさが可愛い。
「歌っている間は、嫌なことを忘れられる。お金もあまりかからないし、いい部活だよ。ようこそ、中央高校合唱部へ。一緒に全国大会へ行こう」
そう言ってから、今度は声を張り上げて、全体に知らせる。
「浪岡美冬ちゃん、入部決定!」
——母さんに殺されかけた日は、美冬と最初に出会った日だった。