特別な君のために
それからは、普通の先輩・後輩として接していた。
あっという間に全国大会、引退、受験、卒業、進学……。
進学先に星路学園大学の心理学部を選んだのは、意思疎通が難しい、幻覚や妄想の世界にいる母さんが、本当は何を考えているのか知りたかったから。
大学にはそういう友達がたくさんいるだろうと思ったら、そうでもなかった。
恵まれた家庭で、何不自由なく暮らしてきたお坊ちゃん、お嬢ちゃんが多かった。
親から虐待を受けて殺されかけた奴なんて、俺しかいない。
父さんが頑張ってるお蔭で、経済的に不自由していなかったのはありがたいけれど、俺は愛情に飢えた子どもだった。
そんな時に出会ったのが、合唱サークルのひとつ上の先輩、由香さんだった。
由香さんはサークルでも中心メンバーのひとりで、ピアノがとても上手だ。
今まで周りにいた女子とは違い、大人っぽくてみんなが憧れていた。
由香さんは俺のことを「ほっとけない男の子だから」と言って、世話を焼いてくれて……。
いつの間にか、付き合うようになった。