特別な君のために
痛みに震えながら、私は自分の右手を見た。
爪の根元が割れ、そこから出血しているのがわかった瞬間、痛みが倍増した。
「痛い! 爪! 割れてる!」
それだけ言うのがやっとだった。
両親が私の指を見て慌てて止血したり、当番病院を探したりしている中、私のスマホの着信音がドアの向こう側で鳴り響いた。またしても、部活関係者からの着信。
何というタイミングの悪さ。
「は~い、ちーちゃんですよぉ。もしも~し、ちーちゃんで~す!」
千春の一本調子なおしゃべりが聞こえる。
「ちーちゃんは、こうとうぶのおねえさんで~す!」
指の痛みが吹き飛ぶ勢いで、私の心がやられている。今は私のメンタルに無数の剣山が突き刺さっている状態だ。
お父さんもお母さんも、千春が私のスマホで勝手に喋っていることなんて構っていない。
「骨、折れてるかも知れない」
「爪はもう、剥がれるだろうな」
この家のみんな、私の気持ちなんて全く考えていない。