特別な君のために

すぐ後ろにいる俺に気づかないまま、美冬がひきつった顔で両手を握りしめている。

あまりにも由香さんが辛く当たるようだったら、助けに入ろうと思った。だけど、美冬は黙っていなかった。


「ご忠告、ありがとうございます。実は私も『抱え込んでいる』身なので、奏多先輩にはいつも相談に乗ってもらっています。私の妹は、知的障がいを併せ持つ自閉スペクトラム障がいです。パニックになった妹に、心と身体をやられた時、支えになってくれたのが奏多先輩でした。この爪も、そのときにやられた跡です」


そう言って、生え変わって間もない、小さくていびつな形をした右手中指の爪を由香さんに見せている。

由香さんの爪とは対照的だけれど、俺は美冬の爪の方がずっといいと思った。


「だけど、妹は私にとって、大事な存在です。奏多先輩にとってのお母さんだって、絶対に大切な人なんです。だから、厄介事を『抱え込む』わけではなく、守ってあげたい存在を『包み込める』人になりたいんです。私はそのために、この大学で勉強したいなって思っています」

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