特別な君のために
その日の夜のことはもう、思い出したくもない。
家族の黒歴史をまたひとつ増やしてしまった。
私が泣き叫んだことで、洗面所にいた千春もパニックに襲われ、電話はそれをきっかけに切れたらしい。
後から確認してみたら、電話の相手はやっぱりなるみ。
その時は掛け直すどころではなくて、放置してしまった……。
お母さんはパニックになった千春が暴れ出さないようなだめるだけで精いっぱい。
お父さんが号泣する私を車に乗せ、当番病院へ走ってくれた。
病院に着くまで、運転しながらずっと「ごめんな」と謝り続けていたお父さん。
お父さんが悪いわけじゃない。もちろん、お母さんが悪いわけでもない。
千春が悪い……ううん、千春自身は悪くない。
やっぱり、私が悪かったのかな……。
どれだけお父さんに謝られても、私の気持ちは痛いまま。
「お父さんは悪くないよ」
その言葉さえ言えずに、泣いていた。