特別な君のために
帰る
「もしもーし! はーい、ちーちゃんでーす」
気づいた時にはもう、妹の手に私のスマホが握られていた。
あの着信音は、部活関係者から。
……もし先輩だったら最悪だ。
「ちーちゃんですよぉ。こーんにーちはー!」
焦って取り返そうとしたけれど、こういう時の妹の逃げ足は本当に速い。テーブルの端を回ってキッチンへ。さらにその奥の洗面所に入って鍵をかけられてしまった。
ああ、もうダメだ。
洗面所から聞こえてくる妹の一方的なおしゃべりに絶望した。
今はとにかく早く電話を切ってくれることを願うしかない。
でも、その後すぐに妹がスマホを返してくれるとは限らない。
壊れずに戻ってくることを全力で祈った。
明日、電話の相手に会ったら謝ろう。
まさかこんなことでカミングアウトすることになろうとは。
───私の妹が、障がい者であることを。