特別な君のために
カエル
自宅へ戻り、いつものように鍵を二重にかけてから「ただいま」を言う。
いつもと違うのは、千春の甲高い声が聞こえてこないことだった。
リビングへ入ると、ソファの隅っこで丸くなって背中を向けている千春が見えた。
キッチンからお母さんが出てきて、千春に何か声をかけている。
多分、謝りなさいとか、そういったことだろう。
千春はどうやら、謝ることができずにいるらしい。
私はもう、そんなのはどうだっていいと思っているけれど、それではお母さんの気が済まないようだ。
しきりに促しているけれど、千春も頑固だから譲らない。
この二人のやりとりを見ているのも落ち着かないので、片手を洗ってからさっさと自分の部屋へ行くことにした。
「痛いから薬飲んで寝るね」
「あ、待って!」
お母さんの声を無視して、私はカバンを持って二階へ移動した。