特別な君のために
パート練習、全体練習が終わり、連休中の校舎の使用リミットである六時半となった。
明日の練習の確認と、顧問の五十嵐先生からのコメント、そして部長の挨拶でいつもの練習メニューが終わった。
奏多先輩は教室の一番前の隅で、私達の様子をじっと見ていた。
時々、小さな声で一緒に歌いながら。
心の底から湧き上がってくる『歌いたい』っていう気持ちが、奏多先輩の表情、しぐさ、小さな声から伝わってくる。
私が気にしすぎていたせいか、歌っている最中にも、何度か目が合った。
その度に、私に向かって小さく片手を前に伸ばす動作をしている。
普通は『どうぞ』に見える動作だけど、障がい者が言葉の補助として使うマカトンサインでは『やってみよう』とも受け取れる動作。
つまり『真面目に練習しろ、指揮者を見ろ』という意味、なのだろう。
さっきの私の話、しっかり覚えていて使っているのかも知れない。