特別な君のために
「え? 千春に会いたいの?」

「ダメ、ですか? もしかしたら私のこと、覚えてないかも知れませんけど、ずっとちーちゃんに会いたくて……」

真剣な表情でお願いされて、私は戸惑った。

千春は幼稚園の頃のことを、あまり良く思っていなかったから。

号泣して家に帰って来ることが多く、ずっと「やなの!」と繰り返していた。

自分の思い通りにはならない、幼稚園での集団行動。

いじめられても、助けを求めるためのボキャブラリーや手段がなかった千春にとって、周りの友達は「こわい」存在だったという。

ランちゃんと会うことで、嫌な思い出がフラッシュバックしてしまい、パニックになるかも知れない。

そうなってしまっては、ランちゃんにも嫌な思いをさせてしまう。


「ごめん。私には決められないの。家に帰って家族と相談してからでもいい? もちろん、千春にも聞くから」

「はい。すみません。お願いします」

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