特別な君のために
「私、卒園式の日に、インフルエンザで休んじゃって、ちーちゃんにはお別れも言えなかったの。ずっと気になってたんだ。だからちーちゃん、また遊びに来てもいい?」

「うん、いいよ。ランちゃんは、おともだちだから」

「ありがとう。じゃあ、今度は夏休み頃、会おうね」

「うん、わかった!」


二人でソファに座って、仲良く話している姿を見ていたら、何だか胸がいっぱいになった。

今日の千春は、フリルのついたネイビーのキュロットスカートに、ビジューが散りばめられた水色のカットソー。

自分で上手に髪を結べない千春は、常にショートヘアだけれど、それがまた色白で小さな顔によく似合っている。

ランちゃんと並んでいると、どちらも定型発達……普通の高校生に見える。


千春には、今、定型発達の友達がいない。

こんな風に、優しく話しかけてくれる人は、極めてまれだ。

電車やスーパーでは、遠巻きに観察されることはあっても、手を差し伸べてくれる人はまずいない。


「……っ」

ふとキッチンを見ると、お母さんがカウンターの向こう側で声を抑えて涙を流していた。

お母さんは私以上に、この光景が嬉しかったのだろう。

千春が一番苦しかった幼稚園時代は、お母さんも苦しんでいたから。



< 68 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop