特別な君のために
「そっか……音大には行かないの?」

なるみは小さい頃からピアノを習っていて、結構弾ける。コンクール課題曲の伴奏くらいならお手の物だ。

「ホントは行きたいよ。でも、私の力で国立の音大や芸大は無理だってこと、自分が一番よく解ってる。だから、ここは手堅く国公立大を目指して公務員ね!」

「どうして、そんなに公務員になりたいの?」

別に、一般企業でも割と大きな会社なら安定していると思うのだけれど。

うちのお父さんの会社も、出張や単身赴任は多いけれど、それなりに安定しているらしい。

「あー、色々あってさ。そうだなー、全国大会へ行けたら、その移動時間かホテルで教えてあげるよ。ここでは、ちょっとね」

部活の休憩中に話せる内容ではなかったらしい。

私にとっての、千春の話もまさにそうだったけれど、なるみにも人に知られたくない秘密があったとは意外だった。

いや、誰だって、表に出したくない秘密の一つや二つを抱えて生きているのかも知れない。

自分だけじゃないんだ。


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