特別な君のために
ヘッドフォンから聴こえてくるのは、一年生の時に部活のコンクールで歌った課題曲。

懐かしいメロディと、調和のとれたハーモニー。繊細だけど前向きな歌詞。

四十人のレギュラーの座を争って、毎日悲鳴をあげながら腹筋・背筋を鍛え、自分が何の部活に入ったのかわからなくなったこともあったっけ。

カジュアルな体育会系の部活より、ずっと厳しい筋トレをしているため「体育会系合唱部」と言われていたなんていうことも知らずに、先輩から勧誘されるまま入部してしまった私。

入学してすぐの頃、中学時代に経験のあった吹奏楽部へ入部しようと思って、音楽室のある三階へ行った時に、声をかけられた。


見上げるほど大きくて、広い肩幅。
日焼けした肌に涼しげな目元。
ニコニコと私に笑いかける、全く知らない男の先輩。
上靴のラインが青だから、三年生だということがわかった。

「君、カラオケ好き? 放課後一緒に歌わない?」
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