特別な君のために
五十嵐先生の話は続く。
「だけどね、何でも一人で背負いこまないで。辛いときは周りに頼りなさい。私なんていつも夫にガンガン家事と育児を振り分けてるんだから~」
「あはは。先生らしいです。でも、そうじゃなきゃできない仕事ですよね」
「そうなのよ~。全国大会へ行ってる間も、夫が全部子ども達の面倒を見なくちゃならないから、今からおかずの準備したり、延長保育の手続きしたり、地味に大変なの」
「お疲れ様です」
「疲れてるのはお互い様でしょ? 受験生、ちゃんと勉強道具もカバンに詰めてね。移動時間は勉強! あ、でも、乗り物酔いには気を付けて」
「……ホント、家でも学校でも、五十嵐先生って、いいお母さんですね!」
褒めたつもりだったのに、五十嵐先生がぷうっとふくれた。そして。
「こんなおっきい子、まだいないんだから~! お母さんじゃなくてママって呼んで!」
「はーい!」
私が元気に答えると、先生の子どもも小さい手を上に伸ばして「はーい!」とマネした。
本当に可愛い。連れて帰ってしまいたくなるほど。
私にも、こんな可愛い子どもが生まれたらいいな……。
そこまで考えて、胸の奥がずきんと痛んだ。
以前見てしまった、掲示板の言葉を思い出したから。
その映像を忘れようと、私は目の前の可愛い子どもを、ぎゅっと抱っこした。