特別な君のために
移動中、三年生のほとんどは、勉強するより寝ることを選んでいた。
自宅でギリギリまで勉強して、移動時間を睡眠時間にする方が効率がいいと思ったのかも知れない。
私の場合、乗り物の中で本を読むと気持ち悪くなるし。もちろん乗り物酔いの薬はちゃんと飲んでいるけれど。
飛行機の座席は、三年生優先で決めたので、私の場所は窓側、通路側はなるみにしてもらった。
離陸する時の耳がツーンとする感じと、急上昇しながら旋回するのはどうしても苦手だ。
落ちないだろうって頭では理解していても、私の心は何でこんな鉄の塊と何百人もの人が空を飛んでるんだ!? と不安になるから。
そんな情けないことは表に出さないようにして、窓の下の景色を楽しもうとするけれど……余計に恐ろしい。
ダメだ。乗っていることを忘れなくちゃ。そうだ!
「なるみ、前に言ってた、進学と就職の話、今なら聞いてもいいでしょ?」
隣で飴をひたすらかじり続けていたなるみが、やっと私に意識を向けてくれた。