伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「仕方ない。お前がそんなに嫌ならこの話……」
「……いいわ」
「え?」
男爵が、キョトンとした顔をする。
「結婚、お受けします。その代わりお父様は、その資金を元手に今度こそ投資を成功させてください。ノーベリ―伯爵様からの援助は、この一回のみにしてください。自分で屋敷を守ろうという気持ちを持って、死ぬ気で頑張ってくださるなら、私も身売りする覚悟を固めます」
「身売りって……ちゃんと正妻として迎えたいとおっしゃっているんだぞ?」
「十五も上のおじさんに嫁ぐのは私にとっては身売り同然です」
きっぱり言えば、父男爵は情けない顔をする。ドロシアはため息をついて、父の両手を握った。
「でも、我が家を救う手立てとしては、これ以上ない申し出ですわ。お父様がこれで立ち直ってくださるというなら、私も喜んで嫁に参ります」
「本当か」
「ええ。それにしても一着くらいはドレスを作ってもらわなければ、支度金の行方も疑われます。そのあたりよろしくお願いしますわ。お父様」
「もちろんだ。おい、マギー、どこに行った。マギー」
「マギーなら庭です。すぐに戻ってまいりますわ。……私は部屋に参ります」
そういうと、ドロシアはつかつかと歩いて父の執務室を出る。閉めるときに、はしたないほどの音を出してしまったが知ったことではない。
ドロシアの心中は複雑なのだ。まるで身売りのような結婚に絶望とほんの少しの期待を持っている。