伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
2.うまい話には裏がある(当然だ)
それから一ヵ月の間、マギーは食事と掃除の合間の時間を使って、死んだ奥方のドレスを、ドロシアにぴったりなるように仕立て直した。
奥方が亡くなったとき、十七歳のドロシアには似合わないだろうと思われた大人っぽいドレスも、今の彼女にならぴったりだ。
帽子も、鞄も、アクセサリーも。換金されず残っていたものは、すべてドロシアがもらい受けることとなった。
「やはり、お輿入れの日は白でないといけませんね」
ノーベリー伯爵から贈られた支度金で、唯一新調した白のドレスを着たドロシアを見て、マギーは目に涙をためて感極まっている。
「それにしてもあのはねっかえりのお嬢様がこんなに立派になって……。奥様にお見せしたかったです」
「マギー。大げさにしないで。私にとっては葬送行列みたいなもんなんだから」
晴れやかな気持ちになどなれるはずもない。どんなに美しく着飾られても、生贄であることに変わりないのだから。
「……本当に嫁に行く気?」
背中にかけられた声に振り向くと、弟のヒースが壁に背を預けて立っていた。
白シャツに茶色のベストを着た背の高い金髪のヒースは十八歳。父に似て、赤みのある金髪だ。ドロシアがずっと憧れていた髪の色。何の遺伝か赤みが強く出てしまった自分の髪がドロシアはあまり好きでなはい。
十三歳からパブリックスクールに入っていたが、母が亡くなって二年後、ついに学費が滞るようになり、中退した。それ以降ヒースは貴族の立場など生きていくうえで必要ないと割り切り、靴職人のもとで修業を始め、今ではいっぱしの給料を持ってくる。
あっさりと貴族の立場を捨てて仕事を始めてしまえるような潔さといい、弟は、ドロシアが欲しいと思うすべてを持っていた。