伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「父とお話はできまして?」
「ええ。あなたのことをとても褒めておられましたよ。ご自慢のお嬢さんなのですね。きっといい縁談がすぐに見つかることでしょう」
「そうだといいのですけれど。父が決めたお相手には別の方がおられるようで」
ビアンカは胸元のネックレスを敢えて見せるように指で触る。
くっきりと見える胸の谷間を彩るように光るそれは、女性のドロシアでさえ見入ってしまう。
「……その美しい宝石は、僕じゃなくても支援者はつくでしょう。僕が欲しいのは作り物の美しさじゃない。日に透けて輝く赤い宝石だ」
「きゃっ」
オーガストは、俯いていたドロシアを腕に抱き上げた。
ドロシアの顔のほうが上になり、自然に優しく笑うオーガストが目に入ってくる。
「僕の宝石は、君だけだよ」
愛おしそうにドロシアの髪に口づける。それだけで、ドロシアは泣き出したいほど嬉しかった。
「オーガスト様」
彼の首に腕を回し、ぎゅっと抱き締める。
人に見られていることなど、もうどうでもよかった。
「そろそろ帰ろう、ドロシア。僕は疲れてしまった」
「だったら降ろしてくださいよ」
「嫌だよ。君はもう僕のものなんだから」
楽しそうに笑いつつ、オーガストはドロシアを抱き上げたまま馬車のほうへ向かう。
「オーガスト様、父はどこに?」
ビアンカが追いすがって腕をつかんだ。
「マクドネル子爵なら、メルヴィル男爵とローズベリー伯爵とお話されているよ。僕に脈がないとみなしたのかな。裕福な貴族とみると目の色を変えるのは、相変わらずだよね」