伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「……なんですって?」
「君の自慢をしていたよ。美しく自慢の娘だと。ローズベリー伯爵の息子さんにもぜひ会わせたいとね。……伯爵子息はすでに妻も子もいるというのは、マクドネル子爵も知っているだろうにね」
オーガストが皮肉交じりに言うと、ビアンカは不満げな顔をあらわにし、髪の花飾りを引き抜いてオーガストの背中に投げつけた。
「引きこもりの伯爵が偉そうに! あなたのせいで私は人生を台無しにされたのよ? 蝶よ花よと育ててきたくせに。年頃になったら途端にものみたいに扱われて! ……私にだって恋人がいたの。彼と結婚する未来を夢見ていた。なのに、急にこんな年上の伯爵様に嫁げと言われたのよ? 挙句、その伯爵はこっちに一つの関心も見せない。それだけでもうんざりなのに、妻も子もいる伯爵子息の愛人だなんて冗談じゃないわ。私はモノじゃないわ。こんなの、もう沢山よ!」
涙を浮かべてにらみつけてくるビアンカに、オーガストは一瞬気を取られた。そして、ムズムズといつも感じる予兆を感じたのだ。
「まずい、ドロシア」
「え?」
鬼気迫った声に猫化を察知したドロシアは、彼の腕から飛びのき、ビアンカの視線から彼を庇うように両腕を広げた。