伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

「……あり得ないことではないんですよ。あなたは魔女の息子でしょう?」


ぽそり、とデイモンが告げる。


「男に魔力が受け継がれにくいということ自体がそもそもおかしいでしょう。単純に、女性よりも使い方が下手だというだけなんだと思います。いくら母上の魔法と使い魔の力があったとしても、あなたが百年以上生きるには、あなた自身に魔力がなければ体がもつはずがありません」

「……デイモン」

「だから、あなたが魔法が使えたからといって驚くことなどないんですよ。それにビアンカさまに暗示をかけたのは好都合です。その猫化の一部始終を忘れるようにうまく暗示をかけたまま元の状態に戻せればいいんですから」

「僕にそんなことができるのか?」

「やり方が分からないでしょう? だから屋敷に戻りましょうと言っているんです。クラリスの手を借りるのが一番いい」


話は終わりだというように、デイモンが外に顔を向けた。

オーガストは黙りこくったまま俯いている。馬車がノーベリー邸につくまで、気まずい空気は続いたままだ。


何度も休憩を挟むほど長い時間だったにも関わらず、オーガストは人間に戻ることはなかった。


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