伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます


ノーベリー邸で馬車を迎えたのはチェスターだ。
ビアンカが乗っていることに驚きを隠せずにいたが、デイモンから説明を受けて、慌ててクラリスを呼びに行った。

猫の姿のオーガストは、たまりかねたように森のほうへと駆け出して行った。ドロシアは追いかけようか迷ったが、「混乱しておられるのですよ。……ドロシア様もでしょう? 少し私のほうから説明しましょう」とデイモンに言われたので黙って従うことにした。


ビアンカ嬢がやってきた事情は、屋敷の中で噂として駆け巡ったらしい。
いつもならエントランスロビーにいるはずの使用人たちも今はなりを潜めている。

ドロシアとビアンカが向かったのは、一階の広めの応接室だ。チェスターから聞いていたのかクラリスが先に部屋の中で待っていた。


「まあ、確かに呪いがかかっていますね。おかけ下さいドロシア様」


クラリスは一目でわかるらしい。
三人は腰かけられる大きさのソファが二脚あるのだが、その一つに座るようにと指示をされ、ドロシアはビアンカを支えるようにして一緒に座った。


「で、呪いをかけた張本人であるオーガスト様は?」

「森に入っていった。じきに戻ってくるだろう。あの方は精神面が弱いからな」

「そうね。森にならアールがいるはずだわ。まかせておけば大丈夫よ」


不満げなデイモンにクラリスが笑いかける。そのうちに、エフィーがお茶の乗ったワゴンを引きながら、アンを伴ってやってきた。心配そうに、ドロシアを覗き込んでくる。


「大丈夫ですか? ドロシア様」

「ありがとう、大丈夫よ、エフィー」

「アンも心配しています」

「みゃー」


アンはドロシアの足元にすり寄っていたかと思うと、そのまま座り込んだ。
エフィーはお茶を置いて戻っていったが、アンは動く気がなさそうだ。
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