伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

部屋の中に残ったのは、ドロシアとその足元にアン。呪いに侵され、意識を持たないビアンカ。それと、デイモンとクラリスだ。


「ドロシア様は心配なさることはありませんよ。ビアンカ様には魔法で暗示がかかっているだけです。暗示はかけた当人がうまくやればちゃんと解除できます。そのやり方は、クラリスがちゃんとわかっていますから、大丈夫です」

「でも、当のオーガスト様は動揺してるわ? できるのかしら」

「旦那様は自分に魔力があるとは思っていなかったのでしょう。男児は魔力を受け継ぎにくいといいますしね。猫化することも、生まれ変われることも自分の力だとは思っていなかったんです」

「はあ」

「それが自分にも同じような力があると知って、驚いたんでしょうね。……百年以上も生きてて、何言ってるんだという感じですけれど」


少し呆れたようにデイモンが乾いた笑いを漏らした。

ドロシアにはいまいち現状が理解しきれない。ただ、オーガストがひどくショックを受けていることが不安でたまらなかった。


「私、……やっぱりオーガスト様を探しに行ってくるわ」

「その必要はありませんよ。お連れしました」


答えたのは、ちょうど扉を開けたチェスターだった。猫の姿のオーガストを抱いて、足元にアールを伴っている。
オーガストは、馬車を下りた当初よりは落ち着いているようだ。ドロシアと目が合うと、バツが悪そうに言った。


「……ごめん。ビアンカ嬢を直さなきゃね」


ドロシアはなんと言ったらいいか分からず微笑みだけを返す。
クラリスがすっと右手を上げ、オーガストに近くに来るように手招きをした。

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