伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「これから記憶操作をしなければなりません。少し時間がかかるでしょう。私とオーガスト様、それとビアンカ様以外は出ていていただけますか?」
クラリスにそう言われて、ドロシアたちは応接室を出た。ここからは魔女の領域だと言われれば、たしかにその通りで、ドロシアには返す言葉もない。
だけど、不安そうな彼を自分が支えてあげられないことが悔しく、いつまでもその扉から目を離せない。
俯いているとアンが足元にすり寄ってくる。
「ごめん。心配してくれてるのね?」
「にゃー」
「……ありがとう、アン」
頭を撫でてやるとアンはうれしそうに鳴いた。そして、アールに呼びかけられると二匹でどこかへと行ってしまう。
残ったのは、ドロシアとデイモンとチェスターだ。
「少し話をしませんか、ドロシア様」
そう言ったのはデイモンで、彼はチェスターに下がるようにと目配せした。
「話……ですか?」
「ええ。これでも私は、一番あなたと立場が近い」
「立場……?」
「人ならざるものと恋に落ちたという意味でね」
ドロシアは思わず息を止めた。そして、歩き出すデイモンに従うように歩き出した。
彼が、魔力を持つものを『人ならざる者』と称したことに若干の不安を抱きながら。