伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます


 デイモンがドロシアを連れてきたのは、屋敷の厨房の隣にある食品貯蔵庫だ。


「……ここは?」

「ドロシア様はまだ入ったことがないでしょう。普段は食材等を保管する場所として使っていますが、実はここが地下室への出入り口です」


デイモンの正面は背の高い棚だ。高いところにはパスタや干し野菜などの乾物があり、中段にソースなどの日持ちのする加工品、下段に小麦粉が小分けにされた袋が並べられている。


「細工がされていましてね。普段は動かないこの棚は、ここを押すことで可動式になるんです」


棚の下のほうにこっそりと存在したボタンのようなものを押すと、かちゃりと何かが動く音がした。つっかえになっていたものが外れたらしく、それはドロシアの力でも簡単に動くようになる。そして動かしたその奥には、木製の古めかしい扉があった。

スライド式になっている扉を開けると、石造りの階段が続いている。さらにその奥にもうひとつ扉があった。
厳重なつくりに、自然に息を飲んでしまう。


「気を付けて」


デイモンのエスコートを受けながら狭い階段を下り、扉をくぐる。
するとそこには、石の壁で囲まれたスペースが存在していた。真っ暗でよくは見えないが。奥のほうに少しだけ光が漏れている。
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